事業承継は誰に相談すればいい?窓口5つの使い分けと選び方
下地 貴之
代表社員・中小企業診断士
「そろそろ会社の先のことを考えなければ」と思ったとき、多くの経営者がまず悩むのが「これは、いったい誰に相談すればいいのか」という問題です。顧問税理士なのか、取引先の銀行なのか、それとも公的な窓口なのか。相手を間違えると、話が思わぬ方向に進んだり、聞きたかったことが聞けないまま終わってしまったりします。
この記事を書いている私(下地貴之)は、2017年から2025年まで山梨県事業承継・引継ぎ支援センターで統括責任者補佐を務め、いわば「公的窓口の中の人」として、数多くの経営者の相談を受けてきました。その立場から、それぞれの相談先が得意なこと、そして構造的にできないことを、できるだけ正直にお伝えします。「どこがいちばん良い」という話ではなく、「あなたの今の悩みなら、まずここ」という順番の話です。
事業承継は誰に相談すればいいのか
結論から言えば、迷ったらまず無料の「事業承継・引継ぎ支援センター」か、すでに会社をよく知っている顧問税理士から始めるのがおすすめです。この2つは費用の心配なく、あるいは既存の関係の中で、全体像を整理する入口になります。そのうえで、具体的に会社を譲る相手を探す段階に進んだら、民間の専門家の力を借りる、という順番が現実的です。
事業承継の主な相談先は、大きく5つに分かれます。それぞれの費用・得意なこと・限界を一覧にすると、次のようになります。
相談先 | 費用 | 得意なこと | 限界 | こんな方向け |
|---|---|---|---|---|
事業承継・引継ぎ支援センター | 無料 | 中立の立場での整理、方向づけ、専門家への橋渡し | 磨き上げや実行の伴走までは手が回りにくい | まず全体像を無料で整理したい方 |
顧問税理士 | 顧問料の範囲〜別途 | 自社株評価、事業承継税制、決算数字の把握 | 承継の実務経験は事務所により差が大きい | 親族・社員に継がせたい方 |
取引先の銀行 | 基本無料(別途手数料の場合あり) | 融資の引継ぎ、資金面の調整、取引先の紹介 | 本業は金融。中立とは限らない | 借入がある、資金面が気になる方 |
商工会・商工会議所 | 無料(会員) | 地域密着の経営相談、身近な入口 | 承継専門の部隊ではない | 気軽に地元で相談したい方 |
M&A仲介・コンサル会社 | 着手金・成功報酬など | 買い手・売り手探し、条件交渉、実行支援 | 手数料体系が会社ごとに大きく異なる | 第三者への売却を具体的に進めたい方 |
大切なのは、「1つに決める」必要はないということです。無料の公的窓口で全体像をつかみ、税理士に数字を見てもらい、いよいよ相手を探す段階で民間の専門家に依頼する。このように、段階に応じて相談先を使い分けるのが、実際にはいちばんうまくいきます。以下、それぞれの窓口を詳しく見ていきます。
事業承継・引継ぎ支援センターは何をしてくれるのか
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が全国47都道府県に設置している公的な相談窓口です。相談は無料で、秘密は厳守されます。特定の売り手や買い手に肩入れしない中立の立場で、「そもそも何から考えればいいのか」を一緒に整理してくれる、いわば最初の相談先として最適な場所です。
私はこのセンターで8年間、統括責任者補佐を務めました。内側から見て、センターが得意なことと、構造的に苦手なことを正直にお伝えします。
まず、センターができることは次のとおりです。
- 後継者がいるか・いないかを含めた、現状の交通整理
- 親族内承継・社員への承継・第三者への譲渡(M&A)といった選択肢の説明
- 後継者不在の会社と、創業希望者などをつなぐ後継者人材バンクなどの制度紹介
- 税理士・弁護士・民間の専門家など、次の相談先への橋渡し
ここが公的窓口の強みです。特定の商品を売りたいわけではないので、「今は動かないほうがいい」という助言も普通にします。民間の会社に相談すると、どうしても「契約してもらう」ことが前提になりがちですが、センターにはその力学が働きません。だからこそ、まだ何も決めていない段階の壁打ち相手として、これほど心強い場所はないと思います。
一方で、センターには構造上の限界もあります。ここは、多くの民間の記事が書かない部分です。
- 課題が顕在化してからの対応が中心になりがちです。「後継者がいなくて困っている」という段階の相談は得意ですが、「まだ元気だが5年後を考えたい」という早い段階の伴走までは手が回りにくいのが実情です。
- 支援メニューが標準化された範囲にとどまります。公的機関である以上、特定の一社に深く入り込んだオーダーメイドの支援には限界があります。
- 会社の価値を高める「磨き上げ」や、実行・承継後の伴走までは手が回りにくいのです。相談員の人数にも限りがあり、一件一件に長期間つきっきりで、というわけにはいきません。
実際、センターに来る相談は「後継者がいない」という後継者不在型が中心でした。ある製造業の会社では、社長が70代に入り、体調を崩してから相談に来られたのですが、そこから買い手を探すには少し時間が足りない、という場面もありました。逆に、業績が伸びていて戦略的に会社を売りたいという成長企業のご相談は、条件を引き出す交渉力の面で、民間の仲介会社のほうが向いていることも多くありました。
だからこそ私は、「無料で中立の公的窓口でまず整理し、必要に応じて民間の専門家につなぐ」という順番を、元・中の人としておすすめしています。センターは、最初の一歩を踏み出す場所として本当に価値があります。
顧問税理士にはいつ相談すればいいのか
自社株の評価や、税負担を抑えるための事業承継税制の活用を考えるなら、顧問税理士への相談は欠かせません。会社の数字を最もよく知っている存在であり、特に親族や社員に会社を引き継ぐ場合、税務の設計は税理士がいないと前に進みません。
税理士に相談するとよいのは、たとえば次のような場面です。
- 自社の株式が今いくらぐらいの評価になるのかを知りたいとき
- 後継者に株式を移す際の贈与税・相続税の見通しを立てたいとき
- 事業承継税制(自社株にかかる贈与税・相続税の納税を猶予・免除する特例制度)が自社で使えるか検討したいとき
特に、業績が良く、長年かけて利益を積み上げてきた会社ほど、自社株の評価額が思いのほか高くなっていることがあります。「たいした会社ではない」とご本人は思っていても、後継者に株を移すときの税負担が重くのしかかる、というのはよくある話です。この見立ては、決算書を読み込んだ税理士でなければ正確にはできません。だからこそ、早めに一度、顧問税理士に「うちの株、今いくらぐらい?」と聞いてみることをおすすめします。
ただし、注意していただきたい点があります。税務の専門家であることと、事業承継全体を進めた経験が豊富であることは、必ずしも一致しません。承継実務の経験は事務所によって大きな差があります。日々の記帳や申告が中心で、承継案件はあまり扱っていない事務所も少なくありません。「うちの先生は承継まで見てくれるか」を一度確認し、心配なら公的窓口や専門家と組み合わせるのが安心です。
取引先の銀行に相談してもいいのか
借入がある会社にとって、銀行は事業承継で必ず関わる相手です。融資をどう引き継ぐか、代表者保証をどうするか、資金面の調整では銀行の協力が欠かせません。近年は銀行が事業承継やM&Aの相談に力を入れており、取引先を紹介してくれることもあります。
一方で、伝えるタイミングには少し気をつけたいところです。銀行の本業はあくまで金融であり、事業承継の専門部隊があるとは限りません。また、「後継者がいない」という情報は、伝え方やタイミング次第で、今後の融資姿勢に影響する可能性もゼロではありません。
私たちは、まず無料で中立の公的窓口や専門家で方針を固め、銀行にはある程度の見通しが立ってから相談する、という順番をおすすめしています。もちろん、日頃から信頼関係のある担当者がいれば、早めに相談すること自体は悪いことではありません。特に、代表者が個人保証をしている借入がある場合、承継の際にその保証をどう扱うかは避けて通れない論点です。ここは銀行との調整が必ず必要になりますので、方針が固まった段階で、早めにテーブルに載せておくと後がスムーズです。
商工会・商工会議所は何をしてくれるのか
商工会・商工会議所は、地域の事業者にとって最も身近な相談窓口です。会員であれば無料で、経営全般の相談に乗ってくれます。事業承継についても、専門の相談員や、前述の事業承継・引継ぎ支援センターへの橋渡しをしてくれることがあります。
ただし、商工会・商工会議所は承継の専門部隊ではありません。日々の経営相談・補助金・記帳指導などが業務の中心で、承継の込み入った実務まで一貫して伴走する体制があるとは限りません。「まず身近なところで、誰かに話を聞いてほしい」という入口としては最適で、そこから専門の窓口につないでもらう、という使い方が向いています。
M&A仲介会社やコンサルティング会社はいつ使うのか
親族や社員に継ぐ人がおらず、第三者に会社を譲る(M&A)ことを具体的に進める段階になったら、M&A仲介会社やコンサルティング会社の出番です。買い手を探し、条件を交渉し、契約と引き渡しまで実行する。ここは、公的窓口が構造的に苦手とする「実行の伴走」を担う領域です。私たちEnridgeも、この承継・M&A支援を専門にしています。
民間の専門家を選ぶうえで、最も大切なのは手数料体系の確認です。着手金の有無、中間金の有無、成功報酬の計算方法、そして「最低報酬額」がいくらか。ここが曖昧なまま契約すると、想定より大きな負担になりかねません。「無料相談」とうたっていても、成約時の手数料が高額なケースもあります。
だからこそ、料金を最初から明示している相手を選ぶことをおすすめします。当社は料金を公表しています。M&A仲介・アドバイザリーは着手金25万円(税抜)に加え、成約したときだけいただく成功報酬(最低200万円〜)という仕組みで、中間報酬や途中解約金はいただきません。初回相談も無料です。詳しくは料金ページをご覧ください。
もう一つ、規模の見極めも大切です。センターにいた頃の実感として、後継者不在で「このままだと廃業するしかない」という会社の受け皿探しは公的窓口や地域の専門家が力を発揮しますが、業績が伸びていて「より良い条件で、成長を続けられる相手に譲りたい」という成長企業の売却は、買い手を広く探して条件を引き出す民間仲介のほうが向いています。自社がどちらのタイプに近いかで、相談先の重心も変わってきます。判断がつかなければ、その見極め自体を無料の窓口で相談していただいて構いません。
悩み別・最初の相談先はここ
ここまで5つの窓口を見てきましたが、「結局、自分はどこから始めればいいのか」が気になると思います。経営者のお悩みは一つではありません。「後継者がいない」だけでなく、「息子に継がせたいがどう進めればいいか」「継いだものの経営が不安」「もっと会社を伸ばしたい」など、実にさまざまです。ここでは代表的なお悩み別に、最初の相談先をまとめます。ご自身に近いものから読んでみてください。
- 「後継者がいない」 — まずは事業承継・引継ぎ支援センター、または当社のような民間の専門家へ。後継者不在は最も相談が多いケースで、第三者への譲渡も含めて選択肢を整理するところから始めます。
- 「息子(社員)に継がせたいが、進め方が分からない」 — 顧問税理士と公的窓口の組み合わせがおすすめです。株式や税金の設計は税理士、全体の段取りは公的窓口、という役割分担が向いています。
- 「会社を売ることも考えたい」 — 料金を明示しているM&A仲介・コンサル会社へ。まずは自社がいくらぐらいで、どんな相手に譲れそうかを聞いてみるとよいでしょう。無料の公的窓口で下調べをしてからでも構いません。
- 「まだ漠然と不安なだけ」 — 無料の公的窓口か、商工会・商工会議所へ。決めていなくても大丈夫です。「何から考えればいいか」を一緒に整理するところから始められます。
相談する前に何を準備すればいいのか
相談をより有意義にするために、手元にあると話が早い資料があります。ただし、完璧に揃える必要はまったくありません。何も持たずに来ていただいても構いませんし、「何から手をつければいいか分からない」という状態こそ、相談する意味があります。
あるとよいものは、次の3つです。
- 決算書3期分 — 会社の今の状態を把握する、いちばんの資料です。
- 株主構成が分かるもの — 誰が何株持っているか。特に株が分散している場合は重要になります。
- ご自身の希望の整理 — 「いつ頃までに」「誰に」「いくらぐらいで」「従業員をどうしたいか」。漠然としていても構いません。
実際の相談では、この3つ目が最も大切です。数字は後からでも集められますが、「社長ご自身がどうしたいのか」だけは、ご本人にしか分かりません。うまく言葉にできなくても大丈夫です。私たちは、その整理をお手伝いするところから始めます。
センターにいた頃、相談に来られる社長の多くが、最初は「うまく説明できる自信がない」とおっしゃいました。それでも、こちらから一つずつお聞きしていくうちに、「本当はこうしたかった」という気持ちが少しずつ言葉になっていきます。準備が整っていないことを、相談しない理由にする必要はまったくありません。むしろ、整理がついていない今の状態を、そのまま持ってきていただくのがいちばんです。
よくある質問
事業承継は誰に相談すればよいですか?
迷ったら、まず無料で中立の「事業承継・引継ぎ支援センター」か、会社をよく知る顧問税理士から始めるのがおすすめです。そのうえで、第三者への売却を具体的に進める段階になったら、料金を明示しているM&A仲介・コンサル会社に相談する、という順番が現実的です。1つに絞らず、段階に応じて使い分けて構いません。
相談にお金はかかりますか?
事業承継・引継ぎ支援センターや、会員向けの商工会・商工会議所の相談は無料です。当社の初回相談も無料です。費用が発生するのは、M&A仲介などで正式にご契約いただいてからで、その料金も事前に公表しています。「まだ決めていない」段階でも、費用の心配なくご相談いただけます。
相談したことが従業員や取引先に知られませんか?
公的窓口も民間の専門家も、秘密厳守が原則です。事業承継・引継ぎ支援センターは公的機関として守秘義務を負っており、当社も同様に情報の取り扱いには細心の注意を払います。従業員や取引先に、いつ・どう伝えるかは、進め方の中で一緒に慎重に設計しますので、勝手に外部に漏れることはありません。
後継者が決まっていない段階で相談してもいいですか?
もちろんです。むしろ、後継者が決まっていない段階こそ相談する意味があります。「継ぐ人がいない」「まだ何も決めていない」という状態からのご相談が、実際にはいちばん多いのです。早く動くほど選べる選択肢は広がりますので、漠然とした不安の段階でお越しください。
この記事の執筆者
下地 貴之(しもじ たかゆき)/合同会社Enridge 代表社員。中小企業診断士、事業承継・M&Aエキスパート。山梨県事業承継・引継ぎ支援センター 統括責任者補佐(2017〜2025)として、数多くの経営者の事業承継・M&Aに携わる。現在は中小企業基盤整備機構 事業承継アドバイザーとしても活動。総合商社・外資系企業でのマーケティング実務の経験も持ち、経営診断から承継まで一貫して支援している。
最初の相談から、承継後まで
Enridgeは、元・山梨県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者補佐が、最初の相談から承継後まで伴走します。公的窓口の内側を知る立場だからこそ、「今のあなたに、どの窓口がいちばん合うか」を中立の目線でお伝えできます。
「誰に相談すればいいかも分からない」——その段階からで構いません。売り込みはいたしません。まずは頭の中を整理するところから、ご一緒します。無料相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。