事業承継・M&A補助金とは?仲介手数料に使える専門家活用枠を解説
下地 貴之
代表社員・中小企業診断士
「会社を誰かに引き継ぎたい。でも、仲介会社に頼むと手数料がずいぶんかかると聞いた。あの費用に、補助金は使えないものだろうか」——事業承継やM&Aを考え始めた経営者から、こうしたご相談をよくいただきます。結論から言うと、条件は付きますが、国の補助金でM&Aの手数料の一部をまかなえる制度は実際にあります。
この記事を書いている私(下地貴之)は、2017年から2025年まで山梨県事業承継・引継ぎ支援センターで統括責任者補佐を務め、現在は中小企業基盤整備機構の事業承継アドバイザー、そして中小企業診断士として、承継やM&Aの現場に立ち会ってきました。その立場から、事業承継に使える補助金の全体像と、いちばん問い合わせの多い「手数料に使える枠」の中身を、できるだけ具体的に整理します。
この記事は2026年7月時点・第15次公募の公募要領にもとづいて書いています。この補助金は公募の回ごとに名称・枠・補助率・上限額などが変わります。申請を検討される際は、必ず最新の公募要領をご確認ください。公式サイトは「事業承継・M&A補助金」(shoukei-mahojokin.go.jp)です。
事業承継に使える補助金はあるのか
あります。国が用意している「事業承継・M&A補助金」(旧・事業承継・引継ぎ補助金)がその代表格です。M&Aの仲介手数料やデューデリジェンス(買収前の調査)の費用の一部まで補助される「専門家活用枠」があり、会社を譲る側・買う側の双方が使えます。
事業承継というと「税金の話」を思い浮かべる方が多いのですが、補助金という切り口の支援も国は用意しています。特に第三者への譲渡(M&A)では、仲介会社やアドバイザーへの手数料がまとまった金額になりがちで、「費用が心配で一歩が踏み出せない」という声は少なくありません。その負担を軽くする狙いで設けられているのが、これから詳しく見ていく補助金です。
そもそも事業承継と補助金が頭の中でつながっていない、という経営者は多いものです。無理もありません。承継の相談窓口では税金や後継者の話が中心になりやすく、「手数料に補助金が使える」という情報は、意識して調べないとなかなか出てきません。私自身、支援センターで相談を受けるなかで、「その手があったのか」と驚かれる社長を何度も見てきました。知っているかどうかだけで、実際の負担が数百万円単位で変わりうる話です。
ただし、補助金である以上、申請すれば必ずもらえるわけではなく、審査があります。対象になる経費や、支払う相手にも細かい条件が付きます。「そういう制度がある」という入口を押さえたうえで、自社が使えそうか、順を追って確認していきます。
事業承継・M&A補助金とは何か
事業承継・M&A補助金は、中小企業の世代交代や第三者への引き継ぎを後押しするための国の制度です。目的の違いによって大きく4つの枠に分かれており、「承継の後に設備投資をしたい」「M&Aの手数料を補助してほしい」といった段階ごとに、使う枠が変わります。
まずは4つの枠の全体像を表にまとめます。自社がどこに当てはまりそうか、あたりをつけてみてください。
枠の名前 | 誰向けか | 主に何に使えるか |
|---|---|---|
事業承継促進枠 | 親族・社員などに承継する会社 | 承継を機に行う設備投資・新たな取り組みの費用 |
専門家活用枠 | M&Aで会社を譲る/買う会社 | 仲介・FAの手数料、デューデリジェンス費用など |
PMI推進枠 | M&Aで会社を買った後の会社 | 買収後の統合(経営の一体化)にかかる費用 |
廃業・再チャレンジ枠 | やむを得ず廃業する会社 | 廃業に伴う費用 |
ざっくり言えば、承継したあとに会社を良くしていくための投資が「事業承継促進枠」、M&Aの相手探しや手続きにかかる専門家費用が「専門家活用枠」、買った会社と自社をなじませる作業が「PMI推進枠」、そして事業をたたむ場合の費用が「廃業・再チャレンジ枠」です。この記事で経営者からの関心がいちばん高いのは、2つ目の専門家活用枠です。次の章でくわしく見ていきます。
なお、「PMI」という言葉になじみがなくても心配はいりません。買収後に社内の制度や取引の流れを一つにそろえていく地道な作業のことで、詳しくは承継・M&A支援のページでも触れています。
仲介手数料に使える「専門家活用枠」の中身
専門家活用枠は、M&Aの相手を探し、交渉し、契約するまでにかかる専門家への費用を補助する枠です。会社を買う側の「買い手支援類型」と、譲る側の「売り手支援類型」に分かれており、いずれも補助の上限は600万円以内とされています。町工場を営む社長にとっては、譲る側の売り手支援類型が身近でしょう。
補助率(かかった費用のうち補助でまかなわれる割合)は、類型によって次のように定められています。
類型 | 補助率 | 補助上限 |
|---|---|---|
買い手支援類型 | 2/3以内 | 600万円以内(加算あり) |
売り手支援類型 | 1/2または2/3以内(要件による) | 600万円以内(加算あり) |
売り手支援類型の補助率は原則1/2ですが、営業利益率の低下や赤字といった業績要件に当てはまる会社は2/3に引き上げられます。業績が厳しいからこそ第三者への引き継ぎを考えている、という会社ほど手厚くなる設計です。また、公募回によっては、デューデリジェンス費用や廃業関連費用について上限額への加算が用意されています。自社の場合にいくらまで対象になるかは、その回の公募要領の要件表で確かめるのが確実です。
ここで注目したいのが、補助の対象になる経費の広さです。M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に支払う費用が対象で、そこには相談料・着手金・中間報酬・成功報酬までが含まれます。加えて、デューデリジェンスの費用や、必要な謝金・旅費なども対象とされています。つまり、M&Aの入口から成約までの主だった専門家費用が、幅広く補助の射程に入っているということです。
イメージをつかんでいただくために、あくまで仮の計算例を挙げます。仲介手数料が合計600万円かかったとして、売り手支援類型の補助率1/2が適用された場合、単純計算では300万円が補助でまかなわれ、実質の負担は300万円まで下がる、という見方になります。もちろん、これは制度の考え方を説明するための概算にすぎません。実際の補助額は、対象と認められる経費の範囲や審査の結果によって変わります。それでも、手数料の重さがこれだけ変わりうるという意味で、知っておく価値のある制度です。
そもそも仲介手数料がどのくらいかかるのか、相場から知りたいという方は、M&A仲介手数料の相場を解説した記事もあわせてお読みください。手数料の全体像がつかめると、補助金でどこまで軽くなるかも見えやすくなります。
見落としがちな条件:登録支援機関であること
専門家活用枠には、多くの経営者が見落とす大切な条件があります。仲介会社やFAに支払った費用が補助の対象になるのは、その業者が「M&A支援機関登録制度」に登録されている場合に限られる、という点です。登録のない業者に手数料を払っても、その分は補助の対象になりません。
M&A支援機関登録制度は、一定の基準を満たしたM&A支援業者を国が登録・公表している仕組みです。補助金を使う前提で仲介会社を選ぶなら、契約する前に「その会社が登録されているかどうか」を必ず確認する必要があります。ここを確かめないまま契約を進めてしまうと、いざ申請という段になって「対象外でした」となりかねません。
確認の方法はシンプルです。登録された業者は公表されていますので、検討している会社の名前が登録リストにあるかを見る、あるいは相手方に直接「登録番号はありますか」と尋ねればわかります。誠実な業者であれば、この質問にすぐ答えられるはずです。
当社Enridgeも承継・M&Aの支援を行っていますが、補助金の利用を前提にお考えの場合は、登録の有無を必ず契約前にご確認ください。これは当社に限らず、どの仲介会社・アドバイザーを選ぶ場合でも共通してお願いしたい確認事項です。
補助金をあてにしすぎない方が良い理由
ここまで補助金の魅力をお伝えしてきましたが、診断士として、あえて水を差すことも申し上げます。補助金は、あくまで「使えたら助かる」ものであって、それを前提に承継全体を組み立てるのは危うい、というのが実務での正直な感覚です。理由は4つあります。
- 審査があり、不採択もあります。申請すれば必ず通るわけではありません。「補助金が出る前提」で資金計画を立てていると、不採択だったときに計画そのものが揺らぎます。
- 公募の期間が限られています。年に複数回の公募がありますが、いつでも申請できるわけではありません。自社の承継を進めたいタイミングと、公募の受付期間がうまく重なるとは限らないのです。
- 入金は後払いです。補助金は、経費を実際に支払い、実績を報告したあとに振り込まれるのが原則です。つまり、手数料はいったん自社で立て替える必要があり、手元資金の準備は別途必要になります。
- スケジュールが不自然になりがちです。補助金の公募に合わせて承継の時期を無理に前後させると、本来もっとも大切な「良い相手に、良い条件で引き継ぐ」という目的が二の次になってしまいます。
私がお伝えしたいのは、「補助金を使うな」ということでは決してありません。使えるなら大いに活用すべきです。ただ、順番を間違えないでほしいのです。まず「誰に、どう引き継ぐか」という承継そのものの設計を固める。そのうえで、タイミングが合えば補助金で費用を軽くする。この順番であれば、補助金は心強い味方になります。逆に、補助金を主役にしてしまうと、承継の判断がゆがみかねません。
山梨の会社が使うときの進め方
実際に補助金を使いながら承継を進めるとしたら、どういう順番で動けばよいのか。おおまかな流れは、公募スケジュールの把握から始まり、支援機関選び、書類の準備、そして採択後の契約・実行、という順になります。地元・山梨の会社が迷わず進めるための道筋を整理します。
- 公募スケジュールを把握する。まず公式サイトで、次の公募がいつ頃になりそうかを確認します。年に複数回の公募がありますので、自社の承継を進めたい時期と重なりそうな回を見当づけます。
- 支援機関を選ぶ。M&Aを伴う場合は、登録された仲介会社やアドバイザーを選びます。前述のとおり、補助金を前提にするなら登録の有無の確認が欠かせません。
- 申請書類を準備する。電子申請にはgBizIDプライムというアカウントが必要になるのが一般的で、これは発行までに一定の時間がかかることがあります。「思い立ってすぐ申請」とはいきにくいので、早めの準備が安心です。事業計画などの書類も、承継の中身が固まっていないと書けません。
- 採択後に契約・実行する。補助金の対象として認められる経費の範囲や、契約のタイミングには制度上のルールがあります。ここを踏み外すと補助対象から外れることもあるため、支援機関や専門家と歩調を合わせて進めるのが確実です。
この一連の流れは、慣れていないと戸惑う場面が多いものです。そこで頼りになるのが、公的な窓口や、承継を専門にする診断士です。山梨には、無料で中立の立場から相談に乗ってくれる事業承継・引継ぎ支援センターがあります。私自身が8年間内側にいた場所で、その役割と使いどころはこちらの記事でくわしく解説しています。まずはこうした窓口で全体像を整理し、必要に応じて当社のような専門家と組み合わせる、という進め方をおすすめします。
大切なのは、動き出しを早めることです。承継の設計にも、書類の準備にも、相手探しにも、それぞれ時間がかかります。「補助金の公募が始まってから考えよう」では間に合わないことが多いのです。まだ何も決まっていない段階でこそ、一度ご相談ください。
よくある質問
補助金はいつ公募していますか?
事業承継・M&A補助金は、例年、年に複数回の公募が行われています。ただし、受付期間は回ごとに異なり、いつでも申請できるわけではありません。次の公募がいつ始まるか、締切がいつかといった最新の情報は、必ず公式サイト(shoukei-mahojokin.go.jp)でご確認ください。自社の承継の時期と公募が重なりそうかを、早めに見ておくと安心です。
個人事業主でも使えますか?
公募の回によって対象者の範囲は定められており、法人だけでなく個人事業主が対象に含まれる場合もあります。ただし、細かな要件は公募要領で決まっており、業種や規模などの条件があります。「うちは個人事業だから」と最初からあきらめず、その回の公募要領で対象者の要件をご確認ください。判断に迷う場合は、公的窓口や専門家に相談するのが確実です。
廃業にも補助金は出ますか?
事業承継・M&A補助金には「廃業・再チャレンジ枠」があり、やむを得ず廃業する際の費用を支援する仕組みが用意されています。後継者が見つからず、事業の継続が難しい場合の選択肢の一つです。補助の対象になる費用や上限などの詳しい条件は公募要領で定められていますので、検討される場合は要領を確認するか、専門家にご相談ください。廃業といっても、事業の一部だけを他社に引き継げるケースもあります。
申請は自分でできますか?
制度上、申請そのものを事業者自身が行うことは可能です。ただ、公募要領の読み込み、事業計画の作成、電子申請の手続きには相応の手間と知識が必要で、本業のかたわら一人で進めるのは負担が大きいのが実情です。M&Aを伴う場合は、登録された支援機関のサポートを受けながら進めるのが現実的でしょう。当社でも、承継の設計とあわせてこうした手続きのご相談を承っています。
この記事の執筆者
下地 貴之(しもじ たかゆき)/合同会社Enridge 代表社員。中小企業診断士、事業承継・M&Aエキスパート。山梨県事業承継・引継ぎ支援センター 統括責任者補佐(2017〜2025)として、数多くの経営者の事業承継・M&Aに携わる。現在は中小企業基盤整備機構 事業承継アドバイザーとしても活動し、経営診断から承継の実行まで一貫して支援している。
手数料の負担も含めて、まず相談を
「仲介手数料が心配」「補助金が自社で使えるのか知りたい」——その段階からで構いません。Enridgeは、元・山梨県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者補佐であり中小企業診断士でもある立場から、承継の設計と費用の見通しをあわせてご説明します。補助金ありきではなく、まずは「どう引き継ぐのがいちばん良いか」から一緒に考えます。無料相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。