赤字の会社は売れるのか、立て直せるのか|判断の分かれ目
下地 貴之
代表社員・中小企業診断士
「もう何年も赤字が続いている」「借入の返済で毎月の資金が削られていく」。そんな状況になると、社長の頭には「うちの会社はもう終わりかもしれない」という言葉がよぎります。夜、事務所に一人でいるときほど、その考えは重くのしかかってくるものだと思います。
けれど、赤字だからといって、道が一つしかないわけではありません。この記事では、業績が苦しくなった会社に残されている選択肢を、「立て直す」「譲る」「畳む」の3つに整理して、それぞれどんな会社に向くのかを正直にお伝えします。書いているのは私(下地貴之)で、山梨県事業承継・引継ぎ支援センターで8年間、うまくいった会社も、間に合わなかった会社も、数多く見てきました。その現場感覚を交えて説明します。
赤字の会社に、道はあるのか
あります。しかも一つではありません。業績が苦しい会社に残された道は、大きく「立て直す」「譲る」「畳む」の3つに分かれます。「赤字だから売れない」「もう終わりだ」と決めつけてしまうのは、まだ早いのです。
大切なのは、この3つを頭ごなしに順位付けしないことです。立て直しが一番えらくて廃業が一番だめ、という話ではありません。会社の状態と、社長ご自身がこれからどうしたいかによって、正解は変わります。どの道を選ぶかには順序があり、その順序をとばして「とにかく借りて何とかする」と突き進むと、かえって選べる道を狭めてしまいます。
まずやるべきは、いまの赤字がどういう性質のものかを見極めることです。ここを飛ばして手を打っても、効き目のない薬を飲むようなものになりかねません。順番に見ていきます。
まず、赤字の「種類」を見極める
赤字には性質の違いがあります。ざっくり分けると「外部環境型」と「構造型」の2つで、この見極めがすべての出発点になります。同じ赤字でも、原因が違えば打つ手はまったく変わってくるからです。
外部環境型というのは、直近の一、二年で急に悪くなったタイプです。原材料が上がった、主要な取引先の業界全体が落ち込んだ、といったもので、まわりの同業者も似たような苦しさを抱えているのが特徴です。この場合、会社そのものの力が落ちたわけではないので、回復の余地は大きく残っています。環境が戻れば、あるいは環境に合わせて商売のやり方を少し変えれば、また利益が出る体質に戻せることが多いのです。
一方の構造型は、何年も慢性的に赤字が続いているタイプです。景気が良かった時期にもうまく利益が出ていなかったのなら、原因は外ではなく、事業の中身や経営のやり方そのものにある可能性が高くなります。こちらは、返済を待ってもらう程度の対処では追いつきません。何にどれだけコストがかかっているのか、本当に儲かっている商売はどれなのか、といったところまで踏み込んで、事業の構造から手を入れる必要があります。
見分ける手がかりは、決算書を数年分並べてみることです。ここ二、三期だけがへこんでいるのか、それとも五年、十年とずっと利益が薄いのか。あわせて、同業者や取引先の様子も思い出してみてください。まわりも一様に苦しいなら外部環境型の色が濃く、自社だけが沈んでいるなら構造型を疑うことになります。もっとも、実際には両方が混ざっていることも多く、外部環境の悪化をきっかけに、隠れていた構造の弱さが表に出てくる、というパターンもよくあります。
自社がどちらに近いのか。数字を並べて「いつから、なぜ悪くなったのか」を振り返るだけでも、見え方がずいぶん変わります。ここが定まって初めて、次の「立て直す」「譲る」「畳む」という話が意味を持ってきます。切り分けが難しいと感じたら、その作業こそ、外部の目を借りるとよいところです。
立て直す道: 返済に追われているなら
本業では利益が出ているのに、借入の返済で手元の現金がじりじり減っていく。もしそういう状態なら、追加でお金を借りる前に、いま借りているお金の返済を待ってもらう相談を検討する価値があります。返して借りて、を繰り返すより、いったん返済を止めて手元資金を作り、その間に稼ぐ力を立て直してから返済を再開する、という道です。
これは実務で「リスケジュール(リスケ)」と呼ばれる、返済の計画を組み直す方法です。一般的に、きちんと計画を立てたうえでの返済猶予に対して、金融機関がペナルティを科すことは基本的にありません。「返済を止めたら取引を切られるのでは」と身構える社長は多いのですが、むしろ黙って資金繰りを悪化させるより、早めに相談したほうが金融機関も一緒に考えやすくなります。
ただし、この手が使えるのは条件がそろっているときだけです。あくまで本業で利益が出ていることが前提で、営業赤字のまま返済を止めても、そもそも手元にお金が残りません。また、猶予をしてもらっている間は新しい借入が難しくなるのが一般的なので、猶予中にどうしても運転資金の借入が必要になる会社では、この方法だけに頼るわけにはいきません。使えるかどうかは、ケースによって変わります。
そして、金融機関に話をするときのコツを一つ。口頭で「なんとかお願いします」と伝えるだけでは、担当者の先にいる本部の審査には届きません。どういう経緯で苦しくなったのか、何が想定外だったのかを率直に書き、これからどう立て直していくのかの道筋を、社長ご自身の言葉で文章にして渡してください。担当者はその紙を本部に上げやすくなりますし、なにより「この社長は逃げずに向き合っている」という誠実さが伝わります。それが信頼につながります。立て直しそのものの進め方については、事業再生・経営改善支援のページで詳しく説明しています。
譲る道: 赤字でも売れる会社の条件
赤字の会社でも、売れることはあります。「うちは赤字だから買い手なんてつくはずがない」とあきらめる社長は多いのですが、これは必ずしも正しくありません。買い手は、いまの損益だけを見ているわけではないからです。
買い手が見ているのは、その会社を自分たちと組み合わせたら、この先どういう姿になるか、という点です。だから、決算書が赤字でも、次のようなものが会社に備わっていれば、価値がつくことがあります。長年かけて磨いてきた技術、簡単には取れない許認可、切りたくても切れない優良な取引先、育った職人や従業員、そして駅前や幹線道路沿いといった立地です。これらは決算書に金額では載りませんが、一から手に入れようとすれば何年もかかるものばかりです。それを丸ごと引き継げるなら、多少の赤字は買い手にとって織り込める範囲になります。
私がセンターで相談を受けてきた中にも、数字だけを見れば厳しいはずなのに、「この技術がほしい」「この取引先とのつながりを引き継ぎたい」という理由で、引き継がれていった会社がいくつもありました。数字は会社の一面でしかない、というのが現場での実感です。買い手が同じ業種で、仕入れや販路を共有できる相手なら、統合するだけで採算が変わることもあります。赤字の原因が、規模の小ささゆえの割高なコストにあったのなら、大きな会社に吸収されることでそれ自体が解消される、ということも起こります。
もっとも、赤字の会社は買い手の数が減り、条件も厳しくなりがちなのは事実です。値段も控えめになりやすく、思い描いた金額に届かないこともあります。それでも、「赤字だから門前払いされる」と思い込んで動かないより、まず自社に数字以外の強みがないかを棚卸ししてみてほしいのです。技術、許認可、取引先、人材、立地。この五つのうち一つでも人に誇れるものがあれば、話を聞いてくれる買い手は探せます。実際にどのくらいの値段になるのかは、会社はいくらで売れる?の記事も参考にしてください。
畳む道も、負けではない
3つ目の道は、会社を畳む、つまり廃業です。この言葉に抵抗を感じる社長は少なくありませんが、計画的に進める廃業は、決して敗北ではありません。むしろ、傷が浅いうちに自分の意思で幕を引くことは、一つの立派な経営判断だと私は考えています。
計画的にやれば、廃業でも守れるものはたくさんあります。従業員には次の勤め先を探す時間を用意でき、場合によっては取引先や同業者に引き取ってもらうこともできます。長く付き合ってきた取引先には、迷惑をかけないよう仕事の引き継ぎができます。個人保証や自宅などの個人資産についても、早く動くほど選べる手が残ります。まわりに筋を通し、社長ご自身の生活も守りながら終える。それが計画的な廃業です。
ここで一つ、頭に入れておいてほしい順序があります。廃業を検討する前に、「その会社は本当に売れないのか」を一度確かめてほしい、ということです。社長が「もう畳むしかない」と思っている会社でも、先ほどの技術や取引先といった価値が残っていれば、譲渡という形で従業員ごと引き継げることがあります。畳めば設備の処分や原状回復にお金が出ていきますが、譲れれば逆にいくらか手元に残ることもあります。廃業は、譲渡の道を確かめたうえでの選択肢として考えても遅くありません。
本当に避けたいのは、廃業という選択そのものではありません。決めきれずに先送りし続け、気づいたときには資金が底をつき、給料も払えず、取引先にも迷惑をかけたまま倒れてしまう。この「なし崩し」がいちばんつらい終わり方です。畳むと決めるなら、まだ体力の残っているうちに。それが、これまで支えてくれた人たちへの誠実さになると思います。
3つの道を、どう選べばいいのか
では、自社はどの道に向いているのか。ここでも起点になるのは、先ほどの「赤字の種類」と、いまどれだけ資金の余力が残っているかです。あくまで目安ですが、状況ごとの向き先を表に整理してみます。実際にはこれらが混ざり合うので、一つの見取り図として読んでください。
いまの状況 | 向いている道 |
|---|---|
本業では利益が出ているが返済負担が重い | 立て直し(返済猶予+収益回復) |
回復は見込めるが後継者がいない・事業に価値がある | 譲渡(第三者への引き継ぎ) |
慢性赤字で回復が難しいが、まだ資金に余力がある | 計画的な廃業 |
本業で利益が出ていて、続けたい意思もある | 立て直し(構造から改善) |
この表で気づいてほしいのは、資金の余力がまだあるうちなら、どの道も選べるということです。手元にお金が残っているからこそ、立て直しの時間も、買い手を探す時間も、きれいに畳む段取りも、確保できます。逆に資金が尽きかけると、選択肢は一気に狭まり、望まない形で決着せざるを得なくなります。だからこそ、「どれを選ぶか」を考えるタイミングそのものが、実はとても大事なのです。
相談は、まだ動けるうちに
お伝えしたいことを一つに絞るなら、これです。相談は、資金が尽きる前ほど選択肢が多い。追い込まれてからでは間に合わないことも、余力のあるうちなら、いくつもの手が打てます。
業績が苦しいとき、社長は誰にも言えずに一人で抱え込みがちです。「こんな状態を人に見せるのは恥ずかしい」という気持ちは、私も現場でたくさん見てきました。けれど、これははっきり申し上げます。会社が苦しくなること自体は、恥ずかしいことではありません。景気にも、取引先の事情にも、社長にはどうにもならないことがたくさんあります。むしろ、苦しい中で「どうにかしたい」と動き出せる社長こそ、立て直せる会社の社長です。
相談先は、いくつもあります。まずは無料で使える公的な窓口として、事業承継・引継ぎ支援センターがあります。中立の立場で話を聞いてくれるので、最初の一歩には向いています。当社Enridgeでも、無料の相談をお受けしています。売却をすすめるでも、廃業をすすめるでもなく、まずはいまの会社の状態を一緒に整理するところから始めます。一人で抱えず、声に出してみてください。
よくある質問
債務超過でも会社は売れますか?
売れるケースはあります。債務超過とは、負債が資産を上回っている状態のことですが、買い手が見ているのは正味財産の額だけではありません。技術や取引先、許認可、人材といった、数字に表れない価値に魅力を感じて引き継ぐ買い手もいます。ただし、条件が厳しくなり、買い手の数も限られるのが一般的です。まずは専門家に、自社の強みを含めて一度見てもらうことをおすすめします。
リスケをすると新規の融資は受けられなくなりますか?
一般的に、返済を猶予してもらっている間は、新規の融資を受けるのは難しくなります。金融機関から見れば「いま返済を待ってもらっている先」になるためです。ですから、リスケを検討するときは、猶予期間中に新たな借入なしで資金を回せるか、という点を必ずセットで確認してください。運転資金が回らなくなりそうなら、リスケだけに頼らず、ほかの手と組み合わせて考える必要があります。判断はケースによって変わるので、資金繰りの見通しとあわせて相談するのが安全です。
赤字会社の売却で、従業員はどうなりますか?
多くのケースでは、従業員の雇用を引き継ぐことを条件に譲渡が進みます。買い手にとっても、現場を支える人材はその会社の価値の一部だからです。とはいえ、雇用の扱いは交渉の中身によって変わる部分もあります。従業員の処遇や、いつ・どう伝えるかについては、会社売却で従業員はどうなる?の記事で詳しく説明しています。
立て直しと売却、どちらを先に考えるべきですか?
順番としては、まず「立て直せるか」を考えるのが自然です。本業に利益が出ていて、続けたい意思があるなら、まずは立て直しの道を探る価値があります。そのうえで、後継者がいない、あるいは一人で立て直すのは難しい、と感じたときに、譲渡を選択肢に加えていく。この二つは対立するものではなく、立て直して会社を良い状態にしてから譲る、という組み合わせもあります。どちらか一方に決め打ちせず、両にらみで考えておくのがよいと思います。
この記事の執筆者
下地 貴之(しもじ たかゆき)/合同会社Enridge 代表社員。中小企業診断士、事業承継・M&Aエキスパート。山梨県事業承継・引継ぎ支援センター 統括責任者補佐(2017〜2025)として、8年間にわたり数多くの経営者の事業承継・M&A・廃業の相談に携わる。現在は中小企業基盤整備機構 事業承継アドバイザーとしても活動。立て直せた会社も、間に合わなかった会社も見てきた立場から、業績が苦しいときこそ役立つ判断材料を、誠実にお伝えしています。
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「うちはどの道が向いているのか」。その一言から、話を始めていただいて構いません。売却や廃業をすすめることはいたしません。まずは会社の状態を一緒に整理し、選べる道がいくつあるのかを、正直にお伝えします。動けるうちほど、打てる手は多く残っています。無料相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。