会社売却にかかる税金はいくら?株式譲渡の税率と手取りの考え方
下地 貴之
代表社員・中小企業診断士
長年育ててきた会社を売ろうと考えたとき、多くの経営者がいちばん気にされるのは「売った値段」そのものよりも、「手元に、結局いくら残るのか」です。売却額から税金を引いた後の金額こそが、老後の生活や次の事業の元手になるからです。ところが、この税金の仕組みは誤解されやすく、実際より多く見積もって不安になる方もいれば、逆に楽観しすぎて後で慌てる方もいらっしゃいます。
この記事では、会社売却でかかる税金の考え方を、できるだけ平易に整理します。株式譲渡の税率と計算方法、役員退職金を組み合わせて手取りを増やす実務、事業譲渡との違いまでを順にご説明します。なお内容は2026年7月時点の制度にもとづく一般的な解説です。実際の税額はお一人おひとりの事情で変わりますので、具体的な金額は必ず顧問税理士にご確認ください。当社(合同会社Enridge)も、税理士と連携して個別のご相談に対応しています。
会社売却にかかる税金は、結局いくらなのか
いちばん多い形である「個人の株主が株式を売る」ケースでは、税金は利益に対して約20%(正確には20.315%)です。ここでいちばん誤解が多いのが、課税の対象は売却額そのものではなく「利益(もうけ)」の部分だけだという点です。8,000万円で売れたからといって、8,000万円に丸ごと2割かかるわけではありません。
この20.315%は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%を合わせた率で、給与など他の所得とは分けて計算する「申告分離課税」になります(国税庁タックスアンサーNo.1463)。つまり、会社をいくらで売っても税率そのものは一定で、給与所得のように税率が段階的に上がっていくことはありません。まずはこの「利益に対して約2割」という感覚をつかんでいただければと思います。そもそも自社がいくらで売れそうかについては、会社はいくらで売れるのかを解説した記事もあわせてご覧ください。
もう一点、税率の内訳について補足しておきます。2027年以降、復興特別所得税の税率や課税期間の見直しと、防衛特別所得税の新設が予定されています。合計の負担水準そのものは実質的に据え置かれる見込みですが、率の内訳が変わる可能性があります。会社売却を実行する時点で、その時々の最新の税率を必ずご確認ください。この記事の数字は、あくまで現時点の目安としてご覧いただければ幸いです。
株式譲渡の税金はどう計算するのか
税金のもとになる「利益」は、譲渡所得と呼ばれます。計算式はいたってシンプルで、譲渡価額から、取得費と譲渡費用を差し引いた残りが譲渡所得です(国税庁タックスアンサーNo.1464)。この譲渡所得に、先ほどの20.315%を掛けたものが納める税金になります。
言葉だけではつかみにくいので、仮の数字で追ってみます。8,000万円で株式を売り、資本金として出資していた分(取得費)が500万円、仲介手数料など売却にかかった費用(譲渡費用)が500万円だったとします。
- 譲渡価額:8,000万円
- 取得費+譲渡費用:500万円 + 500万円 = 1,000万円
- 譲渡所得:8,000万円 − 1,000万円 = 7,000万円
- 税金:7,000万円 × 20.315% ≒ 1,422万円
この例では、売却代金8,000万円から税金約1,422万円を引くと約6,578万円。ここからさらに、すでに支払った仲介手数料などの譲渡費用500万円が出ていきますから、実際の手残りはおよそ6,078万円という見当になります。取得費や費用が大きいほど、課税される利益は小さくなり、税金も減ります。逆に、取得費がほとんどない古い会社では利益がふくらみやすく、税負担も大きくなりがちです。「売却額の何割かは税金で出ていく」という前提で、資金計画を立てておくと安心です。
取得費がわからないときの「5%ルール」
ここで山梨の現場でもよく出会うのが、「先代から株を引き継いだので、いくらで取得したのか記録が残っていない」というお悩みです。取得費がはっきりしないと利益を計算できず、困ってしまいます。こうしたときは、譲渡価額の5%を取得費とみなす「概算取得費」という決まりが使えます(No.1464)。
たとえば8,000万円で売った株式の取得費が不明なら、8,000万円 × 5% = 400万円を取得費として計算に使えます。ただし注意したいのは、実際の取得費が5%より大きいことを証明できれば、そちらを使えるという点です。古い出資の記録や、相続時の評価資料が残っていないか、まずは探してみる価値があります。証拠が見つかれば、課税される利益をさらに小さくできる場合があるからです。
仲介手数料は税金の計算で引けるのか
売却のために支払った仲介手数料は、譲渡費用として利益から差し引ける場合があります。前の章の計算例で「譲渡費用500万円」としていたのが、まさにこの手数料などを想定した部分です。株式を売るために直接かかった費用は、課税される利益を減らす方向に働きます。
ただし、どこまでを譲渡費用として認めてもらえるかは、費用の性質によって判断が分かれます。売却そのものに直接必要だった費用は認められやすい一方、間接的な支出は対象外とされることもあります。M&Aの仲介手数料そのものの相場や仕組みについてはM&Aの仲介手数料と相場を解説した記事にまとめていますので、あわせてご確認ください。そのうえで、自社の手数料が譲渡費用に含められるかどうかの最終的な判断は、顧問税理士に確認していただくのが確実です。
役員退職金を組み合わせると手取りが増えるのはなぜか
会社売却の手取りを考えるうえで、覚えておいて損のない仕組みが「役員退職金」の活用です。売却対価の一部を、株式の代金としてではなく、退任する社長への退職金として受け取る設計にすると、全体の税負担が軽くなることがあります。これは退職金にだけ認められた、税制上の手厚い扱いがあるためです。
退職金の税金には、大きく3つの優遇が重なっています。第一に、勤続年数に応じた「退職所得控除」で、まとまった額が非課税になります。第二に、控除しきれなかった残りも、その2分の1にしか課税されません。第三に、これも給与とは分けて計算する分離課税です(国税庁タックスアンサーNo.1420)。
退職所得控除は、勤続20年までが1年あたり40万円(最低80万円)、20年を超えた分は1年あたり70万円で計算します。たとえば役員として30年勤めた社長なら、次のようになります。
- 20年分:40万円 × 20年 = 800万円
- 20年を超える10年分:70万円 × 10年 = 700万円
- 退職所得控除の合計:1,500万円
この社長が退職金を受け取る場合、1,500万円までは税金がかからず、それを超えた部分も半分にしか課税されません。株式の譲渡益に一律20.315%がかかるのと比べて、退職金として受け取ったほうが有利になる場面があるわけです。譲渡対価の一部を退職金として設計する手法は、中小企業のM&A実務で広く使われています。
イメージをつかむために、あえて単純化した比べ方をご紹介します。買い手に支払ってもらう総額が同じでも、その一部を退職金という形で受け取れば、退職所得控除で非課税になる部分が生まれ、残りも2分の1にしか課税されません。株式の代金として丸ごと受け取り、利益に一律20.315%がかかる場合と比べて、社長の手元に残る合計額が増えることがあります。どの程度の効果になるかは、勤続年数や譲渡益の大きさ、退職金として認められる水準によって変わってきます。だからこそ、株式代金と退職金の配分は、数字を置いて試算してみないと結論が出せません。
退職金の設計で気をつける2つの落とし穴
有利な仕組みだからこそ、行き過ぎると否認されるという注意点があります。とくに次の2つは、金額を決める前に必ず押さえてください。
- 役員としての勤続年数が5年以下の場合、2分の1課税が使えません。これは「特定役員退職手当等」と呼ばれ、短期間だけ役員になって退職金で節税する、という使い方を防ぐための決まりです。就任して間もない役員への退職金を考えるときは要注意です。
- 過大な退職金は、会社の経費(損金)として認められないリスクがあります。同業・同規模の水準と比べて明らかに高すぎる退職金は、税務署から否認され、会社側で余計な法人税が生じることがあります。
退職金をいくらに設定するかは、株式の代金とのバランス、勤続年数、会社の利益水準などを総合して決める、繊細な作業です。この金額設計だけは、思いつきで進めず、必ず税理士と一緒に組み立ててください。当社でも、税理士と連携しながら、無理のない範囲で手取りを最大化する組み合わせをご提案しています。
事業譲渡の場合の税金はどう違うのか
ここまでは個人が株式を売る前提でしたが、「会社の事業だけを売る」事業譲渡では、税金のかかり方がまるで変わります。事業譲渡では売り手が会社そのものになるため、譲渡で得た利益は会社の利益として法人税等の課税対象になります。さらに、売る資産の中身によっては消費税もかかります。
消費税がかかるのは、棚卸資産(在庫)、機械設備、のれん(営業権)などの「課税資産」で、その譲渡価額に10%が上乗せされます(国税庁タックスアンサーNo.6145)。土地のように非課税とされる資産もあるため、何を売るかで負担は変わります。株式譲渡との主な違いを整理すると、次のとおりです。
比べる点 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
売り手 | 個人(株主) | 会社(法人) |
かかる税金 | 譲渡所得に約20% | 譲渡益に法人税等 |
消費税 | かからない | 課税資産に10% |
もう一つ見落としやすいのが、お金が最終的に社長個人に渡るまでの道のりです。事業譲渡では、まず会社が代金を受け取り、そこに法人税等がかかります。その後に残ったお金を、退職金や配当という形で社長個人が受け取ると、そこでも個人の税金がかかります。株式譲渡が「個人が売って一度課税される」のに対し、事業譲渡は「会社で課税され、個人に渡すときにも課税される」二段階になりやすい、と整理しておくとわかりやすいと思います。
個人の手取りという観点だけを見れば、株式譲渡のほうがわかりやすく有利になりやすい傾向があります。一方で、会社に負債が多い、事業の一部だけを残したいといった事情があるときは、事業譲渡が選ばれることもあります。どちらの形が自社に合うかは、会社の状況によって答えが変わりますので、早い段階で専門家に相談されることをおすすめします。当社も、税理士と連携して、どちらの形が手取りと目的の両面で望ましいかを一緒に検討します。
税金を考えるとき、やってはいけないこと
会社売却の税金で後悔しないために、避けたい進め方が3つあります。いずれも、相談の現場で「もっと早く知っていれば」という声をいただく典型例です。
- 税率だけを見て手取りを計算してしまう。「約2割」という率だけで手取りを見積もると、実際とずれます。取得費、譲渡費用、退職金の設計しだいで、残る金額は大きく変わってくるからです。
- 節税だけを目的にした、不自然な設計に走る。税負担を軽くしたい気持ちはよくわかりますが、実態に合わない極端な設計は、後から否認されて余計な税金と手間を招きかねません。あくまで自然な取引の範囲で組み立てることが大切です。
- 実行の直前になって、はじめて税理士に相談する。契約の直前では、退職金の設計や取得費の確認といった打ち手の余地がほとんど残っていません。税金の相談は、売ると決める前の段階から始めるのが理想です。
裏を返せば、早めに全体像をつかんでおくだけで、選べる打ち手はぐっと増えます。税金の話は難しく感じられますが、専門家に骨組みを教わりながら進めれば、必要以上に恐れることはありません。会社売却や事業承継の進め方については、事業承継・M&A支援のページもご参照ください。
会社売却の税金について、よくある質問
売却額と手取りは、どれくらい違いますか?
個人が株式を売る場合、利益の部分に約20%の税金がかかるため、手取りは売却額より小さくなります。ただし、取得費や譲渡費用が大きいほど、また役員退職金をうまく組み合わせるほど、手取りは増えます。同じ売却額でも設計しだいで結果が変わりますので、「だいたいこのくらい残る」という試算を、早めに税理士とご一緒につくっておくと安心です。
赤字の会社を売っても、税金はかかりますか?
一般論として、株式を売って利益(譲渡所得)が出なければ、譲渡所得への税金はかからないのが原則です。会社が赤字であることと、株式の売買で利益が出るかどうかは別の話ですが、取得費を下回る価格でしか売れなければ、譲渡益は生じません。実際の判定は個別の数字によりますので、顧問税理士にご確認ください。
税金は、いつ払うのですか?
個人が株式を譲渡した場合、その利益は、譲渡した年の翌年におこなう確定申告で申告し、納税するのが一般的な流れです。売買代金を受け取った時点ですぐに納めるわけではありません。納税の資金を手元に残しておく必要がありますので、いつ・いくら払うのかも含めて、事前に見通しを立てておくことをおすすめします。
顧問税理士がM&Aに詳しくない場合は、どうすればよいですか?
ふだんの決算をお願いしている税理士が、必ずしもM&Aの税務に精通しているとはかぎりません。その場合でも、顧問税理士を替える必要はありません。当社のように、M&Aに詳しい税理士と連携している支援会社に相談していただければ、これまでの顧問税理士と協力しながら進めることができます。まずは気軽に、今の状況をお聞かせください。
この記事の執筆者
下地 貴之(しもじ たかゆき)/合同会社Enridge 代表社員。中小企業診断士、事業承継・M&Aエキスパート。山梨県事業承継・引継ぎ支援センター 統括責任者補佐(2017〜2025)として、数多くの経営者の事業承継・M&Aに携わる。現在は中小企業基盤整備機構 事業承継アドバイザーとしても活動。経営診断から承継後まで、税理士とも連携しながら一貫して支援している。
まずは、手取りの見通しから相談してみませんか
会社売却の税金は、率だけを見ると難しく感じますが、「利益に約2割」「退職金には手厚い優遇がある」という骨組みをつかめば、全体像は見えてきます。大切なのは、税率の数字ではなく、取得費・費用・退職金まで含めた「手元にいくら残るか」で考えることです。
当社は、山梨県事業承継・引継ぎ支援センターで多くの経営者に伴走してきた経験をもとに、税理士と連携して、あなたの会社に合った手取りの試算からご一緒します。「そもそもいくらで売れるのか」「税金を引いたら、いくら残るのか」——どんな段階のご相談でも構いません。初回相談は無料です。無料相談へ、まずはお問い合わせください。